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しんと静まったキッチンには、外から小鳥のさえずりが聞こえている。

僕がテーブルに朝餉を並べる頃、魔女はちょうど起きてきた。
きっとその前から目が覚めているはずなのに、魔女は料理が出来るのを見計らって自室から出てくる。
起きてるのなら手伝ってくれればいいのに、とはいつも思うけれど間違ってもそんなことは言えない。
一度魔女の機嫌を損ねると直るのには時間がかかるし、結局は僕の気苦労が増えてしまう。

「お早う、ぐっちゃん」
「おはようございます、お姉さん」

僕の目を見ずにそそくさと席について、魔女は無愛想に型どおりの挨拶をする。
これだけ見ても分かるけど、本当に気むずかしくて面倒な婆さんだ。
ホームヘルパーなんて雇ったら真っ先に嫌われるタイプだよな。

しかもこの魔女、自分のことは棚に上げて「愛想のない挨拶は許さない」なんて言ってるもんだから
僕は無愛想な婆さんにいつも満面の笑みで答えなきゃいけない。
前に、欠伸をしながら挨拶を返した時なんて
家中の物が僕に向かって飛んできて大怪我をしたことがある。
勿論、その後始末をするのは僕。
挨拶が大事なのは知ってたけど命を半分賭けなきゃいけないとは知らなかった。

おまけに魔女は年寄り扱いをされるのが嫌いらしく
やっぱり昔、うっかり「おばあさん」と呼んでしまって大変な目にあった。
僕としては魔女と呼ばないだけ譲歩しているつもりなんだけど
あちらにとっては相手を蛙にしてしまうほど不愉快なことらしい。

それ以来、ぼくはこの魔女を形式上「お姉さん」と呼ぶことにしている。
あくまで形式上だけど。



食事前のお祈りをして(魔女でも意外とこういう事をするらしい)、やっと朝ご飯だ。

「トニーんとこのパンに、ポタージュは南瓜だね。あとチキンサラダは」
「はい。レタスと玉葱、人参とマカロニです。ドレッシングはお好みで………」
「見れば分かるよ、おばか」

一蹴された。

既に魔女は食事を始めている。
いつも食事中は無言で、上手いとも不味いとも口にせず黙々と食べてる。
気まずいからといって無理に話しかけると無視されるし
それでも懲りずに話しかけようものならこの部屋で大爆発が起こる。

僕は元々食事は静かにする方だからそうなったことはないけれど
確か一ヶ月ほど前に、この老婆が街で噂の「魔女」とは露知らずやってきた
可哀想な営業マンは黒こげになって帰っていったっけ。
―――ああなるのは御免だ。



かちゃかちゃ、とスプーンと皿が触れあう音だけがダイニングに響く。
粗食の音を立てながらものを食べるなんて無粋な真似はどちらもしない。

「―――第一、食べる音が聞こえるってことは、食べてる時に口が開いてるってことじゃないか。
他の人間に自分が噛み砕いた有象無象を見せびらかすほどあたしは悪趣味じゃあないし
そんな悪趣味な輩も大嫌いだね」

……………なんてことも以前に魔女は言っていた。

言い過ぎだよおばあさん、と(勿論心の中で)思いながら僕もこの意見には賛成だった。
小さい頃に食事のマナーについて色々な人から注意された覚えがあるし
それにこの魔女の台詞にしたって、同じようなことを向かしどこかで言われたような気がする。

正直、魔女を同じ考えなんて持ちたくもないけれど、まぁ仕方ないか。


そんなことを思っていると、魔女は「ごちそうさま」とぶっきらぼうに言って
食器もそのままに下の階へと下りていった。
僕が「お粗末様でした」と返事した時にはダイニングに魔女の姿はなかった。





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